無重力体験と2G体験をした話
先日,京大の宇宙ユニットと霊長類研究所が主催しているパラボリックフライト実験を体験してきました!!
Moon.kyoto パラボリックフライトを用いた微小重力環境における時空間認知を分析する研究教育活動
ざっというと,無重力空間や2G空間で,認知実験を行ったり,アート作品作ろうと奮闘したり,うどんを踏んだりしてきました!
無重力すごい!
- パラボリックフライトとは?
- どんな実験をしたの?
- 0G時はアート作品を作ろうとした
- 2Gではうどんを踏むことにした
- いざフライト!
- 0Gアート作品(?)
- 吐き気について
- うどん
- 微小重力実験を終えた所感
- まとめ
パラボリックフライトとは?
「パラボリックフライト」とは,放物線運動を行うように飛行機を操縦して意図的に微小重力環境を作り出す飛行方法です。
愛知県にあるダイヤモンドエアサービス(DAS)が民間向けに無重力(微小重力環境)体験ができるようサービスを提供しています。
パラボリックフライト中の重力変化は下記が詳しいですが,
ざっというと1G→2G→0G→2G→1Gというように変化していきます。
そう,浮く前に2Gという過酷な重い時間を耐えなければならないのです。(これ,ほんとつらい!)
パラボリックフライトでは,1施行あたり約20秒ほどの微小重力体験ができます。
で,1回のフライトで10施行ほど重力変化を楽しめます。
ギュッとすると,約200秒間微小重力体験ができるってことですね!
”先程から微小重力とあるが,無重力ではないのか?”と思うところですが,やはり完全に無重力である状態を長く作り出すのは難しいらしく,0.0~0.03Gとなるため”微小重力”体験と呼ばれています。
※0.03Gでも十分に人が浮くことができます。
あと,パラボリックフライトで用いられる飛行機は50年前に高級プライベート用ジェットとして開発されたもので,座席(添乗員さん含め8名分)+後ろの方に,人が3〜4人寝転べる程度のフリースペースがあります。
どんな実験をしたの?
このプロジェクトでは,異なる重力環境下におけるヒトの空間認知・時間認知・その他内観の変化を測定する実験をしました。
具体的には,1G,2G,0G環境下で
- 時間計測課題(目をつむって10秒計測)
- 空間認知課題(目をつむって横書きや縦書きで文字を書く。文字の字間のつまり具合から空間認知の差をみる)
- ポインティング課題(紙の中央にマークをつけておいて,それを一旦見てから目をつむり,ペンで「ここがマークだ!」という場所に記録をする。マークからのズレの距離に違いがあるかを見て,空間認知の差を検討する。)
の3つをやりました。
ポインティング課題だけはフリースペースでやりました。
このような認知的な基礎実験を通して,短期的・長期的の両側面からヒトの心理及び認知を研究し,宇宙で継続的に移住・活動するための手がかりを得ることが目的です。
もちろんISS等で既に材料物質研究やタンパク質の結晶化実験といった基礎実験も進んでいますが,認知や心理についてはまだまだ基礎研究も含めてブルーオーシャンな環境だと思うので,とても魅力的だな!!!とワクワクしてました!
この実験の成果報告は2月のシンポジウムで発表する予定です。ほえ〜
0G時はアート作品を作ろうとした
フライト中は実験を行うことが主ですが,速やかに実験を終わらせた余りの時間や1人あたり2回フリータイムを与えてもらえていました!
せっかく無重力を体験するからには何かやろう!考えた結果,0Gのときはアート作品を作りたいと思いました。
アート作品を作るきっかけは,10月のフライトで飛んだ友人が,無重力空間で画用紙に岩絵の具で着色するというアートを試み成功していたことに刺激を受けたことです。
彼は画用紙上に着色させる2次元空間の作品だったので,私は立体空間へ着色してみたい!と思い,提灯に無重力時にインクを入れて着色させようと思い付きました。
さらに別途,実験が始まる前に座席に黒い箱を用意し,光るおもちゃを中に入れて無重力空間で移動する光を露光撮影し,無重力の軌道を記録したいと思いつきました。
そこで,合計2つの作品を作るよう試みることとしました。
無重力時に露光撮影をする試みはすでに筑波大の逢坂先生が試みており,とてもきれいなのでぜひこちらも見てみてください。
とても素晴らしい講演で,大好きで何度も聞き返しています。
でも逢坂先生のような立派なものを作るのはなかなか難しいと思ったので,高すぎないように材料を集めて用意した。
直径10センチ・10個入り400円程度の白提灯をネットで購入。
和紙を東急ハンズで購入し,貼り付け。
この中にウィンザー&ニュートンのドローイングインクを入れたシリンジを刺して,少しだけインクを入れようという作戦!
ウィンザー&ニュートン ドローイングインク 14mlボトル ウルトラマリン
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パッケージが可愛すぎてめっちゃテンションあがった・・・!
あと,東急ハンズで対応してくれた物静かな画材担当のお兄さんに無重力で提灯にインクを飛ばしたいと言ったら「そんな相談初めてです!」と興奮した様子で相談に乗ってくれたのでとても嬉しかった。
ありがとう東急ハンズ四条店。
露光写真は,アクリルボックスを買うと高いのでこの黒色の抽選箱+穴をふさぐためのスポンジセットを購入。
その中に黒の厚めの板や画用紙などを貼って黒ずくめの箱にしていく。
ほぼ作ってもらったおかげで,完璧な黒い箱が完成した!!すごい!!
↑使用後なのでちょっとボロボロ
ランプはカナート洛北の地下にある100均で購入したダイヤモンド型のLEDライトに黒のガムテでぐるぐる巻き&光量が強いので和紙をかぶせて和らげる処理をしてもらいました。ありがとう!
裏が光が漏れるので当日は塞いでいたのですが,それでも少し光が漏れてしまっていた。。残念。。
2Gではうどんを踏むことにした
あれもこれもやりたいと欲ばりすぎるのは良くないと先生方から指導を頂いていたので,2Gは新たに何か取り出してやるというよりも,放っておいても問題ないような仕掛けをいれようと考えました。
2Gの特徴として,やはり重さが倍になること。
この特徴と放っておいてもいいもの…と考えたときに,テクノうどんを突然思い出して,いいじゃん!と思い,やることにしました。
フライト前日にタネを粉っけがなくなる程度にまとめるところまで準備し,あとは踏むだけ!という状態で眠りました。
いざフライト!
今回は日本海側の空域でフライトが行われました!
行く途中もめっちゃきれいだった…!
まずはじめて1G→2G(ビデオでは「30秒前」という掛け声)を体験したとき。
本当に体が重くて腕を上げるのがこんなに大変なのか…!と,磁石で床に吸い付けられているような感覚になりました。
ノートに文字を書いたりストップウォッチを持つのが難しく,でも下を向くと気持ち悪くなるしで困惑。。
その後2G→0G(ビデオでは「NOW」という掛け声)がきたとき,体の制御がきかず,戸惑いと恐怖を感じて目をつむり,ここに留まろうと必死になってしまった…!
記録のビデオでも他の人達が足で自分が飛んでいかないように抑えている様子が確認された。
自分は思ったよりも困惑したときに目を瞑ること,思ったよりも高い声でキャーキャー騒がないで「おぉ・・・・」という反応をすること(笑),2Gで苦しいときでも意外と耐えられるって自分の体なかなかやるやん,という気づきを得ました笑
多分わざわざ2Gから0になるときに「ドキドキする」ってメモしていた気がする。
いや,語彙が幼稚だな!
こんなかんじで,2回くらいは当惑しながらも,「こんなおとなしくしていたらもったいない!もっと無重力を感じないと!」と思い,足で制御するのをなるべくやめることにした。
すると,以前土井隆雄先生が,無重力は「放り投げられたボールのような感覚です」と話されていたが,その表現が身をもって納得するような,まさに放り出される感覚になって,とても驚いた。
ジェットコースターは好きだけれども,あの落ちてヒュンとする感覚ではなくて,自分の動きが流れに逆らえられない感覚と,でもジェットコースターのような危険さを感じない,漂う感覚になった。
先に紹介した逢坂先生は無重力空間を胎内の羊水にいる感覚を思い出すのでは,と説明されていた。
それを聞いていた影響もあるからか,驚くほどに心地の良い不思議な感覚であった。
でも,無重力自体は心地いいが,その後重力が戻るときまでに体勢を元に戻せる自信がない恐怖感は拭いきれなかった。
結局,「首から落ちたらどうしよう…」と気にかかってしまい,派手な動きができないまま,”漂う”経験を重ねた。
自席で実験を4〜5施行?した後,フリースペースへ移動した。
フリースペースでは,フリータイム(1施行)とポインティング課題(1施行)を行うことになっていて,計2施行分の時間を過ごすこととなっている。
フリータイムの2Gでは全身で重さを感じたり,0Gではメッセージを収録したりして過ごした(聞き苦しいためブログへの掲載は避ける)。
ポインティング課題はすぐに終わるので,そのあとは漂うことを楽しんだ。
目線ではこんな感じで思ったよりもしんどくないけれども,写真で見ると無重力感あって,そのギャップにも驚いた。
(左上のモニタに今の重力値が表示されている)
0Gアート作品(?)
実験をやりながらも,予定していた白提灯へインク注入と露光写真を試みた。
まず露光写真では,次の3枚が撮れた!
当初は結構動くのかな?と予想していたので,思ったよりも動きがなくて,マジか!!という気持ちに。
あと,ライトの裏側の光が漏れていたので,小さい光の点はライトの裏側の軌跡かなぁ。
そのおかげでぐるぐる回っていた様子はなんとなく読み取れるかな?
でももっとぶわぶわぶわ〜〜と光が広がると思っていたので,なんだか意外な結果に!
そして提灯の方ですが
勢い余って重力関係なくインクがついとる!!
そそっかしい自分からすると予期していたではあるものの,うーーん悔しい。。
針先は見えないためどれくらいでているかわからないこと,インクを入れるときにシートベルトをしていなくてシリンジを押すのに良い体勢をとることができなかったことがかなり反省点。
あと,シリンジの針先が提灯の中央よりもやや下に位置するほど深めに設定していたので,なおさらよくなかったのかもしれない。。
もっと提灯上部にシリンジの針先がくるようにしていたらよかったのかなぁ。
インクが漏れ出るのが不安で,結構下に配置したのが裏目に出たか。
あーー,もう一度できるのならば,こうした点を改良したいー!悔しい!
ということで,写真が比較的うまくできたかな,という結果になりました。
吐き気について
今回のメンバーで吐く人はいなかったが,パラボリックフライトでは急激な重力変化が伴うため,体調を崩したり吐く人も少なくないという。
特にフリースペースで寝転がっているときは座席に着席しているとき以上に,全身で重力を感じた。
DASから貸してもらえる機内持ち込み用のウエストポーチがあるのだが,それをお腹の上に載せたままにすると,寝ているときに誰かの足がお腹の上にのっけられて苦しくて目が覚める感覚に近い重さを感じた。
過去の被験者の中で,2G環境下で筋トレ(特に腹筋)をした人は必ず吐いたと耳にしたが,そりゃ吐くわと即納得するくらいに負荷がすごかった。
話が前後するが,自席で実験を遂行している際も,0Gから着席の体勢を失敗したままにすると吐きそうになるほど体への負担が大きかった。
(ヤンキーや徹夜中のSEみたいに,ほぼ腰から背中で座っているような体勢のままいるとそこに2Gがかかるのでみぞおちを米でどつかれている感覚になる)
事前に酔い止めを飲んだり,私は途中で結構気持ち悪くなっていたので,深呼吸をしたり「大丈夫…」と唱えるようにしていた(笑)
土井先生から,「酔いそうなときは,グッと力を入れる!集中する!」というアドバイスを以前から頂いていたので,それを意識した。
聞いていたときは「吐きそうなときに力を入れたら出るのでは?」とアホな思考回路をしていたのだが,気合を入れて集中して休む,精神統一をするという感覚が似ているなと思った。
…とはいえ,さいごに集合写真の撮影&火星の重力を体験することができたのだが
その頃にはすっかりしんどくなり,目をつむりひたすらに耐えていた。。
目を開けるとさらに酔いそうになったのだけど,目をつむる回数が多かった分記憶が薄い気がしていて,残念。。
うどん
失礼承知で,同乗した平田先生へうどんを踏むかお尋ねしたところ快諾(!)していただいたので,うどんは私と平田先生の足元に設置しました。
今手元に写真はないですが,ジップロックにいれたうどんを45L の袋に入れて,大きな袋を固定・ジップロックのうどんを遊ばせるようにして配置しました。
(配置のときは指導教官にも手伝って頂き,色んな人を巻き込んだうどん作りになりました。ありがとうございました…!)
フライト中は実験や重力変化に対応するのに必死で,時々思い出したら足踏みしてみたり,足で挟むようにして,うどんをなんとか畳もうと試みました。
そんな微小重力を共にしたうどんがこれ。
翌朝,食べ比べと称して宿泊先(@霊長類研究所)のキッチンでうどんを湯がきました〜!
ザルにあるのが先生作,どんぶりにあるのが私のうどんです。
FREEと書かれていた味噌ダレでタレを作っていただいた。さすが愛知。
結果,踏めるときに踏んでいた私のうどんはハリボーのごとくしっかり硬めの触感になり,「ほとんど踏まなかった」という平田先生のうどんのほうが,硬すぎずおいしいうどんになりました!
いや,2Gの付加価値どこいってん!
また,うどんの準備をしているときに,先生から一言。
「うどんの美味しさは踏む回数よりも,寝かせた時間が関係するらしいよ。」
いや,2Gの付加価値どこいってん!!
とはいえ,発酵もしっかり進んでいて美味しいうどんになりました。
2Gうどんの結論としては,踏みすぎるとコシが入りすぎる,むしろあんま踏まないほうがいいかも,美味しさの秘訣は寝かせた時間に依存するかもしれない,ということでした。
今後はこういった要因を切り分けられるようにうどんを作りたいと思います。
そんなこんなで少しふざけながらも楽しく作ることができてよかったです。
微小重力実験を終えた所感
異重力のなごり
フライト時間は総じて2〜3時間(実験時間は1時間)程度だったものの,フライトを終えてからも座っているときに2Gの感覚が来たり,立ち上がろうとするとそのまま浮いてしまいそうになった。
地上に戻ってからジャンプをすると,まず重力が重く感じて地面を蹴り上げるのが困難に思える,そして体が浮いたらそのまま浮いていくような感覚(膝から頭へ推力が突き抜けていく感覚)がした。
しかし,その後着地すると,膝が力を地面へ伝えることが下手になっていて,崩れ落ちそうになったり,重く感じたりした。
たかだか1時間程度,凝縮すると200秒程度しか異なる重力環境にいなかったにもかかわらず,その後1〜2日かけて,その環境の特徴を身体が記憶しようとし,さらには適応しようとしていることに気がついた。
(このような感覚が1〜2日続いていた。)
そのときに,あぁなんて自分は環境に適応しようと生命的な活動をしているのかと,なんだか健気に感じた。
ヒトの進化と自己肯定感
ナショナルジオグラフィックのドキュメンタリーを見ていると,新しい環境で生存し続けようと変化した動物達を知り,本当にそういう風に変わっていくんかな?進化の過程にいるときってどんな状態なのかな?と思っていた。
今回の実験で,頭の中ではこの2Gや0Gは1時間しか体験できないものだとわかっておきながらも,身体はその環境の変化を受け入れようと,適応し学習しようとしている。
これはヒトの進化の一側面でもある感覚なのではないか?と思い,なんだかとても興奮してしまった。
普段,自分の体にはあまり肯定的になれないのだが,微小重力の経験を通して自分をヒトとして巨視的に捉えることや,2Gに耐えた自分の体への愛着,2Gや0Gの感覚を記憶したり適応したり思い出そうとする健気さから,自己肯定感が向上する感じがした。
前提を疑うことと基礎研究の捉え直しの面白さ
無重力空間では自分がこれまでに得ていた前提や知識,体の制御の仕方が必ずしも役に立たないことを身をもって経験した。
上か下かもわからず,自分の体を自分自身でコントロールするにはどうしたらいいかもわからないという身体的な経験は,身体的な前提の問い直しに留まらず他の事象や事項に対する前提の問い直しまでも誘発した。
素直な気持ちで前提から考え直してみたいと思えることは,なかなか新鮮だった。
先述したが無重力環境では,地球で既に行われている基礎研究をもう一度試みる意義が十分にある。
もしも無重力下で学校を作り授業を展開する場合,どのようなデバイスが必要なのか?教室環境やデザインはどうなるのか?どういうふうにグループワークをさせよう?と考えると,それだけでもワクワクする。
こんなふうに,前提や基礎研究を捉え直して考えていきたいなと思った。
まとめ
- パラボリックフライトを活用した微小重力環境下の実験に参加した
- 持ち込み企画は,アート系は露光写真はまずますの出来,提灯はやや失敗,うどんは楽しく遂行することができた。
- この実験を通して,ヒトっていいなと思えたり,自己肯定感が向上したり,前提や基礎研究を捉え直したいな,という前向きな気持ちになった
いつか本当の宇宙へ行けるように,研究や勉強をこれからも頑張りたいです。