学部時代に所属していた研究室(西岡研)の合宿にOGとして参加してきました!
毎年研究室合宿にはOB/OGが参加していて,現役学生の人たちの研究についてアドバイスを言ったり仕事の近況報告をしたりする,縦のつながりを深めるための貴重な機会でもあります.
今年は先生から卒研生に研究を進めるための実験や調査のやり方についてレクチャーして話してもらえませんか,というお話を頂いたので,それに関するスライドを(ざっくりですが)作りました.
研究の進め方については既に本でもブログでも有益なものがたくさん出回っているとおもいますが
今回は私の出身研究室の特徴である,自分で実験や企画を立案し,その効果検証を行う,教育工学的アプローチな研究をする場合を例にして話しました.
これがスライドです
細かな倫理審査などは筑波大の場合なので他大学では当てはまらないかもしれませんが
研究計画の立案・実験の実施・卒論の執筆について一部のスライドに解説を加えながらまとめてみようと思います
目次
- 目次
- リサーチクエッションどう立てるか問題
- 一次情報と二次情報を集めるサーベイを行う(手と足を動かす)
- 計画だけでなくプロトタイプを早めに作って持ってくる
- 卒論は今から書けるところから書いていく
- つらくなったら「つらい」と報告する
リサーチクエッションどう立てるか問題
リサーチクエッション(RQ)をどう立てるかは一番の本質であり悩みのタネだなと思います.
私自身も未だにうまく作ることができないので奮闘中ですが
学部時代にお世話になっていた教育学類の先生から
「XのためにAをBする」という枠を意識して整理するとRQが洗練される,とアドバイスを受けたことがあります.
Xには,自分の研究成果により恩恵を受ける人物や,自分が解決したいと思っている課題が入ります.
Aには主語や自分が実際に行動・提案するときの対象,名詞節が入ります
Bには動詞(〜を明らかにする)や自分が提案する実験・介入の方法(ワークショップのパッケージを開発する,など)が入ります
この枠のポイントは,XとAとB,全てに違う言葉が入るということです.
私もよく陥るし今回学部生も少し苦戦をしていたのが,研究目的を述べるスライドに「AをBする」しか書いていないことがあります.
これは目的でなく手法・手段しか説明できていません.
目的はXにあるはずですが,それを明示していなかったら,例えば「新たな学習パッケージを開発する」という,あなたがやること自体が目的と主張することになってしまいます.
すると,聞き手にとっては「で,なに?」「なにがすごいの?」「誰のためになるの?」「なんでするの?」といった疑問が出てきます.
研究目的を記述するはずが研究方法を記述しているということを防ぐために,この枠は有益だなと考えています.
経験的に,必ずしもこの枠を使うときれいな文章が作れる!というわけではありませんが,RQを整理するために意識をするという点でおすすめしています.
自分が面白いと思っていることを研究したほうがモチベーションが上がると思うので,自分のやりたいこと・関心のあることを整理することはRQを精緻にする上で重視していいと考えています.
私はマインドマップやKJ法といった思考整理ツールを適宜用いて大量に考えをアウトプット・整理するようにしています.
私はよく自分の研究ノートに殴り書きをして,定期的に昔書いたアイディア出しを見返して,それと見比べてまた直して…とやっていました.
まあ自分に合ったスタイルで自らの関心は整理してもらうとして
重要なのは「研究として」落とし込むためには関心だけでなく先行研究への位置づけを考える必要があります.
「私はこう思うからやってみた」で完結してしまったら,やってみた動画やエッセイと変わりがないですからね.
そのためにはサーベイをして,「先行研究ではここまで言われているけれどもこれは言われてない,だから私がやります」へとつなげることが大事かなと思います.
卒研だと初めて研究する人がほとんどだと思うので,書き方や実験の進め方にしろ,「こういう研究をやりたい!」と思える論文が1つでもあると進めていくために楽だなと思います.
先行研究との位置づけを明確にすると先程提示したXのためにAをBするのときの,「AをBする」も併せて明瞭になるかなと思います.具体的な文章へ変化したりします.
一次情報と二次情報を集めるサーベイを行う(手と足を動かす)
今回は,「論文はCiNiiやGoogle Scholarで頑張って探していますし読んでいます!でも先生からはまだ足りないと言われるんです…」という学生さん向けのアドバイスです.
どこでどんな語句を用いて検索したのか,その情報を先生と共有する
私は学部生の頃「検索したけど先行研究が無いんです!」と伝えると,先生に「本当に探したの?どうやって探したの?」と言われました.
信用されてない?と思ったけどそうではなくて,どんな語句を使ったらどれくらいヒットしたのか,その具体的なデータがないから「全く無いんだ,仕方ないね」と判断するに至らないということです.
毎回はやってられないと思いますが,例えば研究をやりはじめの頃やサーベイになれないうちは
どのプラットフォームでどのような語句を入れたら何件くらいヒットしたか(被引用回数順に表示しているか,最新順に表示しているかなども重要)
こういった情報を指導教官へ伝えることで,先生が次に取るべき具体的な行動を指示しやすくなります.
私が所属していた研究室ではWeeklyレポートという研究の週報を毎週作成していたので,例えばそこで一言その情報を添えるとかするとGoodかなと思います.
図書館や大きな書店へ出向き論文誌や学術書を読み漁る
合宿で学部生に「図書館を使っていますか?」と尋ねた際に,全員使っていると回答してくれました.
しかし,そこで文献を得るのは事前にネットで検索をした結果,その図書館にしかないからor複写文献を依頼しないとわからないからと気づいてから図書館へ出向いた,と話してくれました.
複写文献をしたことがないという学生さんも多いと思うのでこれだけ行動していて偉いな〜と思ったのですが
図書館や本屋には偶発的な文献との出会いができる確立が高いメリットがあるので
偶発的なサーベイを目的に図書館や書店へ行くことを個人的におすすめしています.
私は学部生の頃はよく図書館にこもって過去10年分の論文誌をバーーっと読み漁り,自分に関心のあるものだけでもいいから読むようにしていました.
あと筑波大の場合中央図書館の4階に教育系の本が揃っているのですが,暇さえあればそこをぶらついて気になる背表紙を探して読むとか,関係なさそうな本棚を散歩して「おぉ良さそう」と文献を見つけることもしばしば取り組んでおりました.
ネットももちろん便利ですが,特に書籍に記述されている情報へリーチするには限界がありますし,気分的にもラッキー!感が出るので図書館や本屋へ足を運ぶことをおすすめします.
こうして見つけた論文や書籍から,次に読む文献を芋づる式に探したり
研究者は多くの場合似たような研究テーマで研究しているので,どこの誰が書いた論文かを意識して読むようにするといいかなと思います.
自分の研究関心と近い先生の名前を覚えるのは後のサーベイの効率化に繋がります.
足を運んで一次情報を手に入れよう
自分で実際に見たり感じたり経験をして得た情報(一次情報)は何よりも説得力があります.
論文や書籍で得る二次情報だけでは,その世界の内実はわかりません.
私も学部生の頃からこれをよく聞かされていたので,かなり意識をして自分から情報を集めて外へ出るようにしていました.
そのため,学部時代は色々なことに参加していました(スライド参照)
例えば大学図書館や小学校のICT実践の見学は,私の研究に直接的には関係ないですが,周辺情報を獲得しておくことで多角的に物事を考えられるようになります.
専門バカになることも防げうると思いますし,行って無駄だと思ったことは一度もないので,今後も意識して続けたいです.
私が所属していた研究室はよくワークショップを企画していたので,運営や設営,ファシリテータの仕方を偵察するためにワークショップにも参加していました.(最近はAppleストアのワークショップに参加した.)
研究を始めると「参加者」以外の視点で楽しめるようになるので
毎回どこかへ行くときは何の視点に注目して行くか目標を立てて参加していました.
例えば主催者にファシリテーターをどう育成しているか尋ねたり,その後ファシリテーター本人にその研修モデルを体験してどう思うか尋ねたりしていました.
ほかにもワークショップではどれくらいのゴールを設定しているか,参加費を何円くらいで設定しているか,客入りはどの程度か…など意識して見ていました 笑
嫌な参加者ですね 笑
教育市場調査には同様の視点を持ったり,あとは定点観測を目的に足を運ぶようにしていました.(学部2年頃から通っている.)
まだ一度しかいけてませんが,シーテックなど技術系の見本市にも足を運べるようにしたいなと思っています.
個人的に学部生がイベントへ足を運ぶと得なことがたくさんある(お金がないので商品買わずに質問しても怒られない,「教えてください!」というスタンスで質問しても嫌がられない,むしろ若いのに偉いねと言われたりする)
ので,ぜひ一次情報を集めるために動いてほしいなと思います.
私はICT教育ニュースや
SENSEI POTALからよくイベント情報をゲットしていました.便利ですね.
研究で悩んだ時に,外へ足を運んで得た一次情報が助けてくれることが何度もあったので
私自身これから大切にしたいなと思っています
サーベイのまとめ方について
正直私は上手にサーベイをまとめられていないのですが
マトリクスを作成してみたり,Wordでジャンル別(学習方略,自己調整学習,メタ認知…など)にファイルを作ってそこにまとめたり…いろいろ試しています.
体系的にまとめたいときはマトリクスを,後に論文で引用しやすいことを意識するならWordでまとめるようにしています.
この辺については落合さんが授業で採用している下記のやり方や(実際にFTMAの授業を受講したときに参考になった.研究を進めていくうちに私の分野だともう少し多くの情報量をまとめたいと思ったので途中でやめましたが.)
マトリクスを作る方針としては下記リンクもいいかなと思います.
同期のゆーじくんはこれを完璧に作っていてまじですごいと思った.
私はズボラなので,自分の今の研究を進めていく上で必要な項目で構成する…といった具合で,もっとゆるーくつくっています.
↑私が4年生のときに作成したマトリクスの一例.いろんな大学のシラバス検索システムを使って反転授業実践を探した履歴.
計画だけでなくプロトタイプを早めに作って持ってくる
研究テーマが提案系・開発系の場合は,計画だけでなくプロトタイプを早めに作って持ってくることが大事だと思います.
私は当時,慎重に計画して一発で完成品を作ろうと思っていました 笑
なので抽象的な語句を並べた計画を熱弁し,先生にうまく伝わらないという非効率的なやりとりを1ヶ月くらい続けてしまった経験があります.
「試しになにか作ってみてよ」と何度も言われてようやくプロトタイプをもってきたら,具体性が増してブラッシュアップをする速度も上がり進捗が出ました.
最初からうまくいくことは少ないので,エンジニアリング系だけに留まらず,プロトタイプを早く作ってリビルドしていくことは価値があるなと思います.
卒論は今から書けるところから書いていく
私は冬の大学院受験を控えていたということもありますが,10月から卒論を書いていました.(提出締切は2月中旬)
まずはタイトル,要旨,章立てといった全体の骨格を設計するところから着手していました.
重要なところの分何度もリビルドが必要なので,これも早めに作ると吉だと思います.一番難しいところだけど.
あとは予備実験や先行研究の概観など既に終わっている・知っていることは今すぐ書けるので,書き始めましょう.
最初から精緻な文章が書けない場合は,「〜〜ということを書きたい」等大雑把なコメントや,箇条書きからはじめてもいいと思います.
そうすると文章を作る難しさを実感するので,先行研究を参照し,どのように文章や論を展開しているのか?という意識を持ってまたサーベイに取り組むことができます.
こうした回り道も自分の力になりますし,まだ時間に余裕のある夏や秋頃からやっていると急がば回れを信じて取り組めるとおもうのでオススメです.
あと一文字でもいいからちょこちょこ書き進めていくと進捗は出るので精神衛生的にも良いです.
(9月14日追記分)
また,学部時代「卒論は料理のフルコース」と教育学類の先生から指導をいただきました.
これは箇条書きのように事実を羅列するのではなく,ひとつひとつの章・節・項の中でも位置づけや展開が明確で,かつそれらが統合されたものとしても首尾一貫とし,一つの整合性のある作品として作り上げるということを意図しています.
フルコース料理は一つ一つのお料理ももちろん美味しいですけど,お品書きを読んでワクワクするところから前菜,デザートまでを通して素晴らしい時間を過ごせますよね.
つまり,木も森も見ながら作り上げていくことが大切だ,ということです.
(追記分おわり)
つらくなったら「つらい」と報告する
これはあくまでも私の考えですが,研究やプライベートでつらくなったときは初期のうちに周りに相談したほうがいいと思います.
よく耳にすることですが
進捗でない→ゼミ行くの嫌だ→休もう→休んでるから研究したくない→またゼミに行きたくない→進捗でない→つらい
の負のループに陥ってしまったら時が立つほど脱出が困難になると思います.
そうなってしまう前に,進捗が出ていないとしてもゼミに行くのが嫌だとしても,「うまくいかなくてつらい理由」を報告して一緒に考えてもらうほうがいい方向へ転じると思います.
そもそもやっていない…という場合は,
①なんかやらなきゃいけないことはわかるけど具体的に何から初めたらいいのかわからない,②やるべきことは明確だが気分が向かなくてやれない,など色々なパターンがあると思います.
「進捗出ていないです」と伝えるだけでなく,(とても勇気がいるけれども)なぜできないのか,つらいのかまで原因を考えて報告すると,
例えばスモールステップな目標を考えてもらえるかもしれません.(ex. なんでもいいから論文を3本読んでまとめてみる,RQを絞り込むために◯◯について友人5名それぞれに10分インタビューをしてみる,締切を設定する…など)
休むことも時には必要ですけどやらなきゃいけないことをこなしたほうが精神的にスッキリすることもあると思うので,バランスに気をつけつつ取り組むのが大事かな,と思います.
こんなかんじでざっくりしたことを卒研生に話しました.
先生や先輩からお褒めの言葉もいただいたので,自分が成長した気持ちになれて嬉しかったです 笑
もし気が向いたら,もう少し細かいことに焦点を当ててまとめてみようかなと思います.