In medio stat virtus

雰囲気研究者です。

オンライン授業・オンライン学会における著作物の利用について

先日、オンライン学会マニュアルを公開しました。

redbuller.hatenablog.com

執筆時は著作物の利用がよくわからなかったのですが、少し進展があったのでまとめます。

結論を先に言うと、オンライン授業は無許諾で著作物を利用できますが、オンライン学会は許諾が必要そうです。

※4月21日に改正著作権法第35条について加筆しました。

参考にした資料

文化庁著作権課長 岸本さんの発表資料

国立情報学研究所主催 第3回・第4回 「4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム」で、著作権について発表された岸本さんの資料がとてもわかりやすかったです。

※4月17日の講演内容も基本的には同じで、次に紹介するガイドラインの付録が増えています。

www.nii.ac.jp

↓発表資料(PDF)

https://www.nii.ac.jp/news/upload/20200410-3_Kishimoto.pdf

引用元:岸本織江(2020)「平成30年著作権法改正(授業目的公衆送信補償金制度)の早期施行」. 国立情報学研究所主催 第3回 「4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム」

 

著作物の教育利用に関する関係者フォーラムのガイドライン

4月16日に、SARTRASの事業の一つである「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」が、教育現場での著作物利用のガイドラインとなる「改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)」を公表しました。

https://forum.sartras.or.jp/wp-content/uploads/unyoushishin2020.pdf

  団体HP及び声明はこちらから。

forum.sartras.or.jp

 

オンライン授業では公衆送信利用でも著作物利用可能に

令和3年度に施行予定だった著作権法の改定が前倒しになりました。

mainichi.jp

なんでコロナ渦の前から著作権法を変える予定だったの?

もともと、授業中(=教室に集まる対面授業と、Zoomを使うような同時中継・遠隔合同授業)に限って、無許諾で著作物を利用できることになっていました。

しかし、授業目的であっても、その他の公衆送信(YouTubeに講義映像をアップロードする、LMSによる配信)の場合は著作物の許諾を1つ1つ尋ねないといけない仕組みでした。

作業が大変煩雑ですし、円滑なICT利用ができない問題がありました。

それを、「許諾なしで使っていいけど補償金払ってね〜」という簡便な仕組みに改正しようと、コロナ渦になる前から動き始めていました。

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(岸本織江(2020)「平成30年著作権法改正(授業目的公衆送信補償金制度)の早期施行」p.3より引用

実際、私もOCWコンテンツ制作のバイトをしていたときに著作権処理をしており、先生方がスライドで使っている画像など著作物1つ1つの出典元を探し、引用できるか確かめていました…(とても大変なんです。。)これが毎授業となると権利者も学校もたしかに疲弊するなと。

このように、ICTの教育利用を進めるために、著作権を改正しようと進んでいました。

その改正が令和3年度に予定されていましたが、今回のコロナのことを受けて、本年から施行するに至ったという流れになります。

改正により授業が受ける恩恵

個人的にポイントをまとめると、次の2点になると思います。

(1)必要と認められる限度内で、権利者に対する許諾無しにオンライン授業(=公衆送信)で著作物を利用できる。ただし、補償金を払う必要がある。 

(2)令和2年度に限り、特例で補償金が無償になる

冒頭で紹介したガイドラインには、授業課程で補償金が必要となるか判断しやすい表が掲載されていました。 

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(改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)p.12より引用)

 補償金の仕組みなど知りたい方は、ぜひ資料をお読みください。

授業に関連した全ての公衆送信が無許諾・無償になるわけではない。

(2020年4月21日追記)

だからといって、授業目的なら何でも無許諾・無償で使っていいわけではありません。

高等教育における<不当に害する可能性が高い例>を引用しました。

例)入学式等で学年・学部全体や履修者等全員に配付すること

例)同一の教員等が同一内容の授業を複数担当する場合や、双方向授業で送る側と受ける側で複数の教室が設定される場合などで、それらの授業を担当する教員等及び当該授業の履修者等の合計数を超える数を複製や公衆送信すること

例)同一の教員等がある授業の中で回ごとに同じ著作物の異なる部分を利用することで、結果としてその授業での利用量が小部分ではなくなること

例)授業を行う上で,教員等や履修者等が通常購入し,提供の契約をし又は貸与を受けて利用する 教科書や,一人一人が演習のために直接記入する問題集等の資料(教員等が履修者等に対して購入を指示したものを含む。)に掲載された著作物について、それらが掲載されている資料の購入等の代替となるような態様で複製や公衆送信すること

例)美術、写真、楽譜など、市販の商品の売上に影響を与えるような品質や態様で提供すること。また,これらの著作物を一つの出版物から多数を取り出して利用すること

例)製本して配布すること

例)組織的に素材としての著作物をサーバーへストック(データベース化)すること

(改正著作権法第35条運用指針 令和2(2020)年度版  p.8より引用)

 

さらに、コピーやアクセスの制限がかけられた著作物の複製又は公衆送信利用(Blu-ray Disc/DVDなどの映画の著作物等)などの取り扱いは検討中だそうです。そのため、映画などを利用したい場合は、引き続き権利者の許諾を得て利用する必要があるそうです。

著作権や大学設置基準の規則について、専修大学が提供している簡易ガイドがとてもわかりやすくまとめてくださっているので、ぜひご確認ください。

senshu-iis.jp

 

なによりも権利を侵害しないことを念頭に、適切な引用をした教材作成が求められると思います。

著作物の「適法引用」について、わかりやすいチェックリストがあるので、下記リンクもご参照ください。

www.highedu.kyoto-u.ac.jp

 

(追記終わり)

オンライン学会では許諾が必要

さて、結局オンライン学会では著作物利用はどうなの?という点ですが…

(2020年4月21日追記)

そもそも著作権法第35条の対象が「学校等の授業過程」のみ

改正著作権法第35条運用指針の冒頭では、下記のように強調されています。

改正著作権法第35条は、「学校その他の教育機関」で「教育を担任する者」と「授業を受ける者」に対して、「授業の過程」で著作物を無許諾・無償で複製すること、無許諾・無償又は補償金で公衆送信(「授業目的公衆送信」)すること、無許諾・無償で公に伝達することを認めています。ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りではありません。

(改正著作権法第35条運用指針 令和2(2020)年度版  p.3より引用)

そもそも今回改定される著作権法第35条は「学校その他の教育機関における複製等」に関するものです。

学会は「学校その他の教育機関」でも「授業過程」でもない

そのため、学会は「学校その他の教育機関」にも「授業過程」にも対応しません。

詳しく見ていきましょう。

(追記終わり)

 

岸本さんの資料によると…

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(岸本織江(2020)「平成30年著作権法改正(授業目的公衆送信補償金制度)の早期施行」p.11より引用

今回の法改定で許諾不要・無償or補償金制度で公衆送信利用をできるのは、あくまでも授業における利用でしかなく(図の②と③)
「授業以外における学校その他の教育機関による利用」×「公衆送信利用」(図の⑨)は該当しないようです。 

 

学会は授業過程ではないですが、「学校その他の教育機関」に含まれるのでしょうか?と思い調べてみると…

ガイドラインには「学校その他の教育機関」の対象や、「授業」が指す範囲が紹介されています。 

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(改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)p.5より引用)

 

なるほど、社会教育機関などは含まれるが、学会は対象にならなそう…。

 つまり、オンライン学会で著作物を使用するときは許諾が必要だといえそうです。

オンライン授業のような柔軟性はなさそうですね。。

 

たしかに学会利用をOKにすると、ワークショップや勉強会、企業が主催するイベントはだめなのか…など線引も難しくなるでしょうし、仕方ないかなという気持ちもあります。(でも正直面倒くさい)

どうにかならんかなーという気持ちもありますが、とにかく授業に関して大きな前進があったことには間違いないと思います。

 

また進展があったら加筆します。