In medio stat virtus

雰囲気研究者です。

無重力体験と2G体験をした話

先日,京大の宇宙ユニットと霊長類研究所が主催しているパラボリックフライト実験を体験してきました!!

Moon.kyoto パラボリックフライトを用いた微小重力環境における時空間認知を分析する研究教育活動

 

ざっというと,無重力空間や2G空間で,認知実験を行ったり,アート作品作ろうと奮闘したり,うどんを踏んだりしてきました!

無重力すごい!

 

 

 

パラボリックフライトとは?

パラボリックフライト」とは,放物線運動を行うように飛行機を操縦して意図的に微小重力環境を作り出す飛行方法です。

愛知県にあるダイヤモンドエアサービス(DAS)が民間向けに無重力(微小重力環境)体験ができるようサービスを提供しています。

 

www.das.co.jp

 

パラボリックフライト中の重力変化は下記が詳しいですが,

ざっというと1G→2G→0G→2G→1Gというように変化していきます。

そう,浮く前に2Gという過酷な重い時間を耐えなければならないのです。(これ,ほんとつらい!)

www.astraxexpress.com

 

パラボリックフライトでは,1施行あたり約20秒ほどの微小重力体験ができます。

で,1回のフライトで10施行ほど重力変化を楽しめます。

ギュッとすると,約200秒間微小重力体験ができるってことですね!

 

”先程から微小重力とあるが,無重力ではないのか?”と思うところですが,やはり完全に無重力である状態を長く作り出すのは難しいらしく,0.0~0.03Gとなるため”微小重力”体験と呼ばれています。

※0.03Gでも十分に人が浮くことができます。

 

fanfun.jaxa.jp

 

あと,パラボリックフライトで用いられる飛行機は50年前に高級プライベート用ジェットとして開発されたもので,座席(添乗員さん含め8名分)+後ろの方に,人が3〜4人寝転べる程度のフリースペースがあります。

 

 

どんな実験をしたの?

このプロジェクトでは,異なる重力環境下におけるヒトの空間認知・時間認知・その他内観の変化を測定する実験をしました。

具体的には,1G,2G,0G環境下で

  1. 時間計測課題(目をつむって10秒計測)
  2. 空間認知課題(目をつむって横書きや縦書きで文字を書く。文字の字間のつまり具合から空間認知の差をみる)
  3. ポインティング課題(紙の中央にマークをつけておいて,それを一旦見てから目をつむり,ペンで「ここがマークだ!」という場所に記録をする。マークからのズレの距離に違いがあるかを見て,空間認知の差を検討する。)

の3つをやりました。

ポインティング課題だけはフリースペースでやりました。

 

このような認知的な基礎実験を通して,短期的・長期的の両側面からヒトの心理及び認知を研究し,宇宙で継続的に移住・活動するための手がかりを得ることが目的です。

 

もちろんISS等で既に材料物質研究やタンパク質の結晶化実験といった基礎実験も進んでいますが,認知や心理についてはまだまだ基礎研究も含めてブルーオーシャンな環境だと思うので,とても魅力的だな!!!とワクワクしてました!

 

この実験の成果報告は2月のシンポジウムで発表する予定です。ほえ〜

 

0G時はアート作品を作ろうとした

フライト中は実験を行うことが主ですが,速やかに実験を終わらせた余りの時間や1人あたり2回フリータイムを与えてもらえていました!

せっかく無重力を体験するからには何かやろう!考えた結果,0Gのときはアート作品を作りたいと思いました。

 

アート作品を作るきっかけは,10月のフライトで飛んだ友人が,無重力空間で画用紙に岩絵の具で着色するというアートを試み成功していたことに刺激を受けたことです。

彼は画用紙上に着色させる2次元空間の作品だったので,私は立体空間へ着色してみたい!と思い,提灯に無重力時にインクを入れて着色させようと思い付きました。

さらに別途,実験が始まる前に座席に黒い箱を用意し,光るおもちゃを中に入れて無重力空間で移動する光を露光撮影し,無重力の軌道を記録したいと思いつきました。

そこで,合計2つの作品を作るよう試みることとしました。 

 

無重力時に露光撮影をする試みはすでに筑波大の逢坂先生が試みており,とてもきれいなのでぜひこちらも見てみてください。

とても素晴らしい講演で,大好きで何度も聞き返しています。

www.youtube.com

 

でも逢坂先生のような立派なものを作るのはなかなか難しいと思ったので,高すぎないように材料を集めて用意した。

 

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直径10センチ・10個入り400円程度の白提灯をネットで購入。

和紙を東急ハンズで購入し,貼り付け。

この中にウィンザーニュートンのドローイングインクを入れたシリンジを刺して,少しだけインクを入れようという作戦!

 

  

ウィンザー&ニュートン ドローイングインク 14ml ゴールド 283

ウィンザー&ニュートン ドローイングインク 14ml ゴールド 283

 

 

パッケージが可愛すぎてめっちゃテンションあがった・・・!

あと,東急ハンズで対応してくれた物静かな画材担当のお兄さんに無重力で提灯にインクを飛ばしたいと言ったら「そんな相談初めてです!」と興奮した様子で相談に乗ってくれたのでとても嬉しかった。

ありがとう東急ハンズ四条店。

 

 

露光写真は,アクリルボックスを買うと高いのでこの黒色の抽選箱+穴をふさぐためのスポンジセットを購入。

 

タカ印 抽選用品 抽選箱(黒色・無地)と目隠しシートセット
 

その中に黒の厚めの板や画用紙などを貼って黒ずくめの箱にしていく。

ほぼ作ってもらったおかげで,完璧な黒い箱が完成した!!すごい!!

 

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↑使用後なのでちょっとボロボロ

 

ランプはカナート洛北の地下にある100均で購入したダイヤモンド型のLEDライトに黒のガムテでぐるぐる巻き&光量が強いので和紙をかぶせて和らげる処理をしてもらいました。ありがとう!

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裏が光が漏れるので当日は塞いでいたのですが,それでも少し光が漏れてしまっていた。。残念。。

 

 

2Gではうどんを踏むことにした

あれもこれもやりたいと欲ばりすぎるのは良くないと先生方から指導を頂いていたので,2Gは新たに何か取り出してやるというよりも,放っておいても問題ないような仕掛けをいれようと考えました。

2Gの特徴として,やはり重さが倍になること。

この特徴と放っておいてもいいもの…と考えたときに,テクノうどんを突然思い出して,いいじゃん!と思い,やることにしました。

www.itmedia.co.jp

 

フライト前日にタネを粉っけがなくなる程度にまとめるところまで準備し,あとは踏むだけ!という状態で眠りました。

 

いざフライト!

今回は日本海側の空域でフライトが行われました!

 

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行く途中もめっちゃきれいだった…!

 

まずはじめて1G→2G(ビデオでは「30秒前」という掛け声)を体験したとき。

本当に体が重くて腕を上げるのがこんなに大変なのか…!と,磁石で床に吸い付けられているような感覚になりました。

ノートに文字を書いたりストップウォッチを持つのが難しく,でも下を向くと気持ち悪くなるしで困惑。。

 

その後2G→0G(ビデオでは「NOW」という掛け声)がきたとき,体の制御がきかず,戸惑いと恐怖を感じて目をつむり,ここに留まろうと必死になってしまった…!

記録のビデオでも他の人達が足で自分が飛んでいかないように抑えている様子が確認された。

 


1回め2Gから0G

 

自分は思ったよりも困惑したときに目を瞑ること,思ったよりも高い声でキャーキャー騒がないで「おぉ・・・・」という反応をすること(笑),2Gで苦しいときでも意外と耐えられるって自分の体なかなかやるやん,という気づきを得ました笑

 

多分わざわざ2Gから0になるときに「ドキドキする」ってメモしていた気がする。

いや,語彙が幼稚だな!

 

こんなかんじで,2回くらいは当惑しながらも,「こんなおとなしくしていたらもったいない!もっと無重力を感じないと!」と思い,足で制御するのをなるべくやめることにした。

すると,以前土井隆雄先生が,無重力は「放り投げられたボールのような感覚です」と話されていたが,その表現が身をもって納得するような,まさに放り出される感覚になって,とても驚いた。

ジェットコースターは好きだけれども,あの落ちてヒュンとする感覚ではなくて,自分の動きが流れに逆らえられない感覚と,でもジェットコースターのような危険さを感じない,漂う感覚になった。

先に紹介した逢坂先生は無重力空間を胎内の羊水にいる感覚を思い出すのでは,と説明されていた。

それを聞いていた影響もあるからか,驚くほどに心地の良い不思議な感覚であった。

 

でも,無重力自体は心地いいが,その後重力が戻るときまでに体勢を元に戻せる自信がない恐怖感は拭いきれなかった。

結局,「首から落ちたらどうしよう…」と気にかかってしまい,派手な動きができないまま,”漂う”経験を重ねた。

 

自席で実験を4〜5施行?した後,フリースペースへ移動した。

フリースペースでは,フリータイム(1施行)とポインティング課題(1施行)を行うことになっていて,計2施行分の時間を過ごすこととなっている。

フリータイムの2Gでは全身で重さを感じたり,0Gではメッセージを収録したりして過ごした(聞き苦しいためブログへの掲載は避ける)。

 

ポインティング課題はすぐに終わるので,そのあとは漂うことを楽しんだ。


ポインティング課題時カメラ

 

目線ではこんな感じで思ったよりもしんどくないけれども,写真で見ると無重力感あって,そのギャップにも驚いた。

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(左上のモニタに今の重力値が表示されている)

 

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0Gアート作品(?)

実験をやりながらも,予定していた白提灯へインク注入と露光写真を試みた。

 

まず露光写真では,次の3枚が撮れた!

 

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当初は結構動くのかな?と予想していたので,思ったよりも動きがなくて,マジか!!という気持ちに。

あと,ライトの裏側の光が漏れていたので,小さい光の点はライトの裏側の軌跡かなぁ。

そのおかげでぐるぐる回っていた様子はなんとなく読み取れるかな?

でももっとぶわぶわぶわ〜〜と光が広がると思っていたので,なんだか意外な結果に!

 

 

そして提灯の方ですが

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勢い余って重力関係なくインクがついとる!!

 

そそっかしい自分からすると予期していたではあるものの,うーーん悔しい。。

 針先は見えないためどれくらいでているかわからないこと,インクを入れるときにシートベルトをしていなくてシリンジを押すのに良い体勢をとることができなかったことがかなり反省点。

 あと,シリンジの針先が提灯の中央よりもやや下に位置するほど深めに設定していたので,なおさらよくなかったのかもしれない。。

もっと提灯上部にシリンジの針先がくるようにしていたらよかったのかなぁ。

インクが漏れ出るのが不安で,結構下に配置したのが裏目に出たか。

 

あーー,もう一度できるのならば,こうした点を改良したいー!悔しい!

ということで,写真が比較的うまくできたかな,という結果になりました。

 

吐き気について

今回のメンバーで吐く人はいなかったが,パラボリックフライトでは急激な重力変化が伴うため,体調を崩したり吐く人も少なくないという。

特にフリースペースで寝転がっているときは座席に着席しているとき以上に,全身で重力を感じた。

DASから貸してもらえる機内持ち込み用のウエストポーチがあるのだが,それをお腹の上に載せたままにすると,寝ているときに誰かの足がお腹の上にのっけられて苦しくて目が覚める感覚に近い重さを感じた。

過去の被験者の中で,2G環境下で筋トレ(特に腹筋)をした人は必ず吐いたと耳にしたが,そりゃ吐くわと即納得するくらいに負荷がすごかった。

話が前後するが,自席で実験を遂行している際も,0Gから着席の体勢を失敗したままにすると吐きそうになるほど体への負担が大きかった。

(ヤンキーや徹夜中のSEみたいに,ほぼ腰から背中で座っているような体勢のままいるとそこに2Gがかかるのでみぞおちを米でどつかれている感覚になる)

 

事前に酔い止めを飲んだり,私は途中で結構気持ち悪くなっていたので,深呼吸をしたり「大丈夫…」と唱えるようにしていた(笑)

土井先生から,「酔いそうなときは,グッと力を入れる!集中する!」というアドバイスを以前から頂いていたので,それを意識した。

聞いていたときは「吐きそうなときに力を入れたら出るのでは?」とアホな思考回路をしていたのだが,気合を入れて集中して休む,精神統一をするという感覚が似ているなと思った。

 

…とはいえ,さいごに集合写真の撮影&火星の重力を体験することができたのだが

その頃にはすっかりしんどくなり,目をつむりひたすらに耐えていた。。

目を開けるとさらに酔いそうになったのだけど,目をつむる回数が多かった分記憶が薄い気がしていて,残念。。

 

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うどん

失礼承知で,同乗した平田先生へうどんを踏むかお尋ねしたところ快諾(!)していただいたので,うどんは私と平田先生の足元に設置しました。

今手元に写真はないですが,ジップロックにいれたうどんを45L の袋に入れて,大きな袋を固定・ジップロックのうどんを遊ばせるようにして配置しました。

(配置のときは指導教官にも手伝って頂き,色んな人を巻き込んだうどん作りになりました。ありがとうございました…!)

 

フライト中は実験や重力変化に対応するのに必死で,時々思い出したら足踏みしてみたり,足で挟むようにして,うどんをなんとか畳もうと試みました。

 

そんな微小重力を共にしたうどんがこれ。

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翌朝,食べ比べと称して宿泊先(@霊長類研究所)のキッチンでうどんを湯がきました〜!

ザルにあるのが先生作,どんぶりにあるのが私のうどんです。

FREEと書かれていた味噌ダレでタレを作っていただいた。さすが愛知。

 

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結果,踏めるときに踏んでいた私のうどんはハリボーのごとくしっかり硬めの触感になり,「ほとんど踏まなかった」という平田先生のうどんのほうが,硬すぎずおいしいうどんになりました!

いや,2Gの付加価値どこいってん!

 

また,うどんの準備をしているときに,先生から一言。

「うどんの美味しさは踏む回数よりも,寝かせた時間が関係するらしいよ。」

いや,2Gの付加価値どこいってん!!

 

とはいえ,発酵もしっかり進んでいて美味しいうどんになりました。

2Gうどんの結論としては,踏みすぎるとコシが入りすぎる,むしろあんま踏まないほうがいいかも,美味しさの秘訣は寝かせた時間に依存するかもしれない,ということでした。

今後はこういった要因を切り分けられるようにうどんを作りたいと思います。

そんなこんなで少しふざけながらも楽しく作ることができてよかったです。

 

微小重力実験を終えた所感

異重力のなごり

フライト時間は総じて2〜3時間(実験時間は1時間)程度だったものの,フライトを終えてからも座っているときに2Gの感覚が来たり,立ち上がろうとするとそのまま浮いてしまいそうになった。

地上に戻ってからジャンプをすると,まず重力が重く感じて地面を蹴り上げるのが困難に思える,そして体が浮いたらそのまま浮いていくような感覚(膝から頭へ推力が突き抜けていく感覚)がした。

しかし,その後着地すると,膝が力を地面へ伝えることが下手になっていて,崩れ落ちそうになったり,重く感じたりした。

たかだか1時間程度,凝縮すると200秒程度しか異なる重力環境にいなかったにもかかわらず,その後1〜2日かけて,その環境の特徴を身体が記憶しようとし,さらには適応しようとしていることに気がついた。

(このような感覚が1〜2日続いていた。)

そのときに,あぁなんて自分は環境に適応しようと生命的な活動をしているのかと,なんだか健気に感じた。

ヒトの進化と自己肯定感

ナショナルジオグラフィックのドキュメンタリーを見ていると,新しい環境で生存し続けようと変化した動物達を知り,本当にそういう風に変わっていくんかな?進化の過程にいるときってどんな状態なのかな?と思っていた。

今回の実験で,頭の中ではこの2Gや0Gは1時間しか体験できないものだとわかっておきながらも,身体はその環境の変化を受け入れようと,適応し学習しようとしている。

これはヒトの進化の一側面でもある感覚なのではないか?と思い,なんだかとても興奮してしまった。

普段,自分の体にはあまり肯定的になれないのだが,微小重力の経験を通して自分をヒトとして巨視的に捉えることや,2Gに耐えた自分の体への愛着,2Gや0Gの感覚を記憶したり適応したり思い出そうとする健気さから,自己肯定感が向上する感じがした。

 

前提を疑うことと基礎研究の捉え直しの面白さ

無重力空間では自分がこれまでに得ていた前提や知識,体の制御の仕方が必ずしも役に立たないことを身をもって経験した。

上か下かもわからず,自分の体を自分自身でコントロールするにはどうしたらいいかもわからないという身体的な経験は,身体的な前提の問い直しに留まらず他の事象や事項に対する前提の問い直しまでも誘発した。

素直な気持ちで前提から考え直してみたいと思えることは,なかなか新鮮だった。

 

先述したが無重力環境では,地球で既に行われている基礎研究をもう一度試みる意義が十分にある。

もしも無重力下で学校を作り授業を展開する場合,どのようなデバイスが必要なのか?教室環境やデザインはどうなるのか?どういうふうにグループワークをさせよう?と考えると,それだけでもワクワクする。

こんなふうに,前提や基礎研究を捉え直して考えていきたいなと思った。

 

 

まとめ

  • パラボリックフライトを活用した微小重力環境下の実験に参加した
  • 持ち込み企画は,アート系は露光写真はまずますの出来,提灯はやや失敗,うどんは楽しく遂行することができた。
  • この実験を通して,ヒトっていいなと思えたり,自己肯定感が向上したり,前提や基礎研究を捉え直したいな,という前向きな気持ちになった

 

いつか本当の宇宙へ行けるように,研究や勉強をこれからも頑張りたいです。

 

 

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研究室合宿で卒業研究に向けた研究の進め方についてプレゼンした話

学部時代に所属していた研究室(西岡研)の合宿にOGとして参加してきました!

毎年研究室合宿にはOB/OGが参加していて,現役学生の人たちの研究についてアドバイスを言ったり仕事の近況報告をしたりする,縦のつながりを深めるための貴重な機会でもあります.

 

今年は先生から卒研生に研究を進めるための実験や調査のやり方についてレクチャーして話してもらえませんか,というお話を頂いたので,それに関するスライドを(ざっくりですが)作りました.

研究の進め方については既に本でもブログでも有益なものがたくさん出回っているとおもいますが

今回は私の出身研究室の特徴である,自分で実験や企画を立案し,その効果検証を行う,教育工学的アプローチな研究をする場合を例にして話しました.

 

これがスライドです

www.slideshare.net

 

細かな倫理審査などは筑波大の場合なので他大学では当てはまらないかもしれませんが

研究計画の立案・実験の実施・卒論の執筆について一部のスライドに解説を加えながらまとめてみようと思います

 

目次

 

リサーチクエッションどう立てるか問題

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リサーチクエッション(RQ)をどう立てるかは一番の本質であり悩みのタネだなと思います.

私自身も未だにうまく作ることができないので奮闘中ですが

学部時代にお世話になっていた教育学類の先生から

XのためにAをBする」という枠を意識して整理するとRQが洗練される,とアドバイスを受けたことがあります.

Xには,自分の研究成果により恩恵を受ける人物や,自分が解決したいと思っている課題が入ります.

Aには主語や自分が実際に行動・提案するときの対象,名詞節が入ります

Bには動詞(〜を明らかにする)や自分が提案する実験・介入の方法(ワークショップのパッケージを開発する,など)が入ります

 

この枠のポイントは,XとAとB,全てに違う言葉が入るということです.

私もよく陥るし今回学部生も少し苦戦をしていたのが,研究目的を述べるスライドに「AをBする」しか書いていないことがあります.

これは目的でなく手法・手段しか説明できていません.

目的はXにあるはずですが,それを明示していなかったら,例えば「新たな学習パッケージを開発する」という,あなたがやること自体が目的と主張することになってしまいます.

すると,聞き手にとっては「で,なに?」「なにがすごいの?」「誰のためになるの?」「なんでするの?」といった疑問が出てきます.

 

研究目的を記述するはずが研究方法を記述しているということを防ぐために,この枠は有益だなと考えています.

経験的に,必ずしもこの枠を使うときれいな文章が作れる!というわけではありませんが,RQを整理するために意識をするという点でおすすめしています.

 

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自分が面白いと思っていることを研究したほうがモチベーションが上がると思うので,自分のやりたいこと・関心のあることを整理することはRQを精緻にする上で重視していいと考えています.

私はマインドマップKJ法といった思考整理ツールを適宜用いて大量に考えをアウトプット・整理するようにしています.

私はよく自分の研究ノートに殴り書きをして,定期的に昔書いたアイディア出しを見返して,それと見比べてまた直して…とやっていました.

まあ自分に合ったスタイルで自らの関心は整理してもらうとして

重要なのは「研究として」落とし込むためには関心だけでなく先行研究への位置づけを考える必要があります.

「私はこう思うからやってみた」で完結してしまったら,やってみた動画やエッセイと変わりがないですからね.

そのためにはサーベイをして,「先行研究ではここまで言われているけれどもこれは言われてない,だから私がやります」へとつなげることが大事かなと思います.

卒研だと初めて研究する人がほとんどだと思うので,書き方や実験の進め方にしろ,「こういう研究をやりたい!」と思える論文が1つでもあると進めていくために楽だなと思います.

 

先行研究との位置づけを明確にすると先程提示したXのためにAをBするのときの,「AをBする」も併せて明瞭になるかなと思います.具体的な文章へ変化したりします.

 

一次情報と二次情報を集めるサーベイを行う(手と足を動かす)

今回は,「論文はCiNiiやGoogle Scholarで頑張って探していますし読んでいます!でも先生からはまだ足りないと言われるんです…」という学生さん向けのアドバイスです.

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どこでどんな語句を用いて検索したのか,その情報を先生と共有する

私は学部生の頃「検索したけど先行研究が無いんです!」と伝えると,先生に「本当に探したの?どうやって探したの?」と言われました.

信用されてない?と思ったけどそうではなくて,どんな語句を使ったらどれくらいヒットしたのか,その具体的なデータがないから「全く無いんだ,仕方ないね」と判断するに至らないということです.

毎回はやってられないと思いますが,例えば研究をやりはじめの頃やサーベイになれないうちは

どのプラットフォームでどのような語句を入れたら何件くらいヒットしたか(被引用回数順に表示しているか,最新順に表示しているかなども重要)

こういった情報を指導教官へ伝えることで,先生が次に取るべき具体的な行動を指示しやすくなります.

私が所属していた研究室ではWeeklyレポートという研究の週報を毎週作成していたので,例えばそこで一言その情報を添えるとかするとGoodかなと思います.

 

図書館や大きな書店へ出向き論文誌や学術書を読み漁る

合宿で学部生に「図書館を使っていますか?」と尋ねた際に,全員使っていると回答してくれました.

しかし,そこで文献を得るのは事前にネットで検索をした結果,その図書館にしかないからor複写文献を依頼しないとわからないからと気づいてから図書館へ出向いた,と話してくれました.

複写文献をしたことがないという学生さんも多いと思うのでこれだけ行動していて偉いな〜と思ったのですが

図書館や本屋には偶発的な文献との出会いができる確立が高いメリットがあるので

偶発的なサーベイを目的に図書館や書店へ行くことを個人的におすすめしています.

 

私は学部生の頃はよく図書館にこもって過去10年分の論文誌をバーーっと読み漁り,自分に関心のあるものだけでもいいから読むようにしていました.

あと筑波大の場合中央図書館の4階に教育系の本が揃っているのですが,暇さえあればそこをぶらついて気になる背表紙を探して読むとか,関係なさそうな本棚を散歩して「おぉ良さそう」と文献を見つけることもしばしば取り組んでおりました.

ネットももちろん便利ですが,特に書籍に記述されている情報へリーチするには限界がありますし,気分的にもラッキー!感が出るので図書館や本屋へ足を運ぶことをおすすめします.

 

こうして見つけた論文や書籍から,次に読む文献を芋づる式に探したり

研究者は多くの場合似たような研究テーマで研究しているので,どこの誰が書いた論文かを意識して読むようにするといいかなと思います.

自分の研究関心と近い先生の名前を覚えるのは後のサーベイの効率化に繋がります.

 

足を運んで一次情報を手に入れよう

 

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自分で実際に見たり感じたり経験をして得た情報(一次情報)は何よりも説得力があります.

論文や書籍で得る二次情報だけでは,その世界の内実はわかりません.

私も学部生の頃からこれをよく聞かされていたので,かなり意識をして自分から情報を集めて外へ出るようにしていました.

 

そのため,学部時代は色々なことに参加していました(スライド参照)

例えば大学図書館や小学校のICT実践の見学は,私の研究に直接的には関係ないですが,周辺情報を獲得しておくことで多角的に物事を考えられるようになります.

専門バカになることも防げうると思いますし,行って無駄だと思ったことは一度もないので,今後も意識して続けたいです.

 

私が所属していた研究室はよくワークショップを企画していたので,運営や設営,ファシリテータの仕方を偵察するためにワークショップにも参加していました.(最近はAppleストアのワークショップに参加した.)

研究を始めると「参加者」以外の視点で楽しめるようになるので

毎回どこかへ行くときは何の視点に注目して行くか目標を立てて参加していました.

例えば主催者にファシリテーターをどう育成しているか尋ねたり,その後ファシリテーター本人にその研修モデルを体験してどう思うか尋ねたりしていました.

ほかにもワークショップではどれくらいのゴールを設定しているか,参加費を何円くらいで設定しているか,客入りはどの程度か…など意識して見ていました 笑

嫌な参加者ですね 笑

教育市場調査には同様の視点を持ったり,あとは定点観測を目的に足を運ぶようにしていました.(学部2年頃から通っている.)

まだ一度しかいけてませんが,シーテックなど技術系の見本市にも足を運べるようにしたいなと思っています. 

 

個人的に学部生がイベントへ足を運ぶと得なことがたくさんある(お金がないので商品買わずに質問しても怒られない,「教えてください!」というスタンスで質問しても嫌がられない,むしろ若いのに偉いねと言われたりする)

ので,ぜひ一次情報を集めるために動いてほしいなと思います.

私はICT教育ニュースや

ict-enews.net

SENSEI POTALからよくイベント情報をゲットしていました.便利ですね.

senseiportal.com

 

 

研究で悩んだ時に,外へ足を運んで得た一次情報が助けてくれることが何度もあったので

私自身これから大切にしたいなと思っています

 

サーベイのまとめ方について

正直私は上手にサーベイをまとめられていないのですが

マトリクスを作成してみたり,Wordでジャンル別(学習方略,自己調整学習,メタ認知…など)にファイルを作ってそこにまとめたり…いろいろ試しています.

体系的にまとめたいときはマトリクスを,後に論文で引用しやすいことを意識するならWordでまとめるようにしています.

この辺については落合さんが授業で採用している下記のやり方や(実際にFTMAの授業を受講したときに参考になった.研究を進めていくうちに私の分野だともう少し多くの情報量をまとめたいと思ったので途中でやめましたが.)

lafrenze.hatenablog.com

 

マトリクスを作る方針としては下記リンクもいいかなと思います.

 

readingmonkey.blog.fc2.com

 

同期のゆーじくんはこれを完璧に作っていてまじですごいと思った.

私はズボラなので,自分の今の研究を進めていく上で必要な項目で構成する…といった具合で,もっとゆるーくつくっています.

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↑私が4年生のときに作成したマトリクスの一例.いろんな大学のシラバス検索システムを使って反転授業実践を探した履歴.

 

計画だけでなくプロトタイプを早めに作って持ってくる

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 研究テーマが提案系・開発系の場合は,計画だけでなくプロトタイプを早めに作って持ってくることが大事だと思います.

私は当時,慎重に計画して一発で完成品を作ろうと思っていました 笑

なので抽象的な語句を並べた計画を熱弁し,先生にうまく伝わらないという非効率的なやりとりを1ヶ月くらい続けてしまった経験があります.

「試しになにか作ってみてよ」と何度も言われてようやくプロトタイプをもってきたら,具体性が増してブラッシュアップをする速度も上がり進捗が出ました.

最初からうまくいくことは少ないので,エンジニアリング系だけに留まらず,プロトタイプを早く作ってリビルドしていくことは価値があるなと思います.

 

 

卒論は今から書けるところから書いていく

 

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私は冬の大学院受験を控えていたということもありますが,10月から卒論を書いていました.(提出締切は2月中旬)

まずはタイトル,要旨,章立てといった全体の骨格を設計するところから着手していました.

重要なところの分何度もリビルドが必要なので,これも早めに作ると吉だと思います.一番難しいところだけど.

あとは予備実験や先行研究の概観など既に終わっている・知っていることは今すぐ書けるので,書き始めましょう.

最初から精緻な文章が書けない場合は,「〜〜ということを書きたい」等大雑把なコメントや,箇条書きからはじめてもいいと思います.

そうすると文章を作る難しさを実感するので,先行研究を参照し,どのように文章や論を展開しているのか?という意識を持ってまたサーベイに取り組むことができます.

こうした回り道も自分の力になりますし,まだ時間に余裕のある夏や秋頃からやっていると急がば回れを信じて取り組めるとおもうのでオススメです.

あと一文字でもいいからちょこちょこ書き進めていくと進捗は出るので精神衛生的にも良いです.

 

(9月14日追記分)

また,学部時代「卒論は料理のフルコース」と教育学類の先生から指導をいただきました.

これは箇条書きのように事実を羅列するのではなく,ひとつひとつの章・節・項の中でも位置づけや展開が明確で,かつそれらが統合されたものとしても首尾一貫とし,一つの整合性のある作品として作り上げるということを意図しています.

フルコース料理は一つ一つのお料理ももちろん美味しいですけど,お品書きを読んでワクワクするところから前菜,デザートまでを通して素晴らしい時間を過ごせますよね.

つまり,木も森も見ながら作り上げていくことが大切だ,ということです.

(追記分おわり)

つらくなったら「つらい」と報告する

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これはあくまでも私の考えですが,研究やプライベートでつらくなったときは初期のうちに周りに相談したほうがいいと思います.

よく耳にすることですが

進捗でない→ゼミ行くの嫌だ→休もう→休んでるから研究したくない→またゼミに行きたくない→進捗でない→つらい

 の負のループに陥ってしまったら時が立つほど脱出が困難になると思います.

そうなってしまう前に,進捗が出ていないとしてもゼミに行くのが嫌だとしても,「うまくいかなくてつらい理由」を報告して一緒に考えてもらうほうがいい方向へ転じると思います.

そもそもやっていない…という場合は,

①なんかやらなきゃいけないことはわかるけど具体的に何から初めたらいいのかわからない,②やるべきことは明確だが気分が向かなくてやれない,など色々なパターンがあると思います.

「進捗出ていないです」と伝えるだけでなく,(とても勇気がいるけれども)なぜできないのか,つらいのかまで原因を考えて報告すると,

例えばスモールステップな目標を考えてもらえるかもしれません.(ex. なんでもいいから論文を3本読んでまとめてみる,RQを絞り込むために◯◯について友人5名それぞれに10分インタビューをしてみる,締切を設定する…など)

 

休むことも時には必要ですけどやらなきゃいけないことをこなしたほうが精神的にスッキリすることもあると思うので,バランスに気をつけつつ取り組むのが大事かな,と思います.

 

 

 

こんなかんじでざっくりしたことを卒研生に話しました.

先生や先輩からお褒めの言葉もいただいたので,自分が成長した気持ちになれて嬉しかったです 笑

もし気が向いたら,もう少し細かいことに焦点を当ててまとめてみようかなと思います.